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宮城の養殖漁業の再生を考える - 志津川地区の産消提携事業の事例から

里企画(地産地消アドバイザー)齋藤清治

 

●はじめに 「めぐみ野」は復旧・復興に貢献できているか?

みやぎの産消提携事業「めぐみ野」は浜(志津川)の復旧・再生に役立ったか?

東日本大震災から7年になります。宮城は地震・津波、又、一部福島第一原発事故による風評に見舞われました。宮城の震災復旧・復興は第一次産業(農林水産業)の復旧・復興無しには達成できません。

それは持続可能な地域経済を支える社会作りに欠くことが出来ないものだからです。震災前から宮城の農業・漁業は海外からの農産物や水産物およびその加工品の大量に輸入によって農家・漁家の所得は減少傾向にありました。中山間地や沿岸地区では少子高齢化が進み過疎、限界集落も見られるようになっています。そのような中での東日本大震災は農村や漁村に農地、漁場、施設や人的に極めて大きな打撃を与えました。

漁業分野では宮城県は2013年9月から5年間、石巻桃の浦地区の被災漁業者と仙台の卸業者が出資する桃の浦かき生産者合同会社に「水産特区」を適用し漁業権を与えました。行政からの大きな支援を受けた合同会社の検証は別にして、10数年前からみやぎ生協と志津川漁業協同組合(当時)のいわゆる産消提携事業の復旧・復興の取り組みがあります。その内容を報告します。今後の宮城の漁業再生への多少の参考になれば幸いです。震災後も継続した産消提携事業「めぐみ野」は浜(志津川)の復旧・再生に役だったのか?検証してみたいと思います。

筆者は1974年に宮城県民生協(現在みやぎ生協)に入協し、主に生鮮食品事業及び地産地消(産直事業推進)を担当し2015年退職し現職に至ります。

 

1.みやぎ(生協)の産消提携事業について

1)1970年宮城県民生協は大学生協の支援の下多賀城に一号店を開店しました。多くの若い子育て主婦から「抗菌剤の無い豚肉、鶏肉が食べたい」という要求に基づき当時の角田市農協と豚肉、鶏肉の産直を始めたのが始まりです。

2)その後、産直の基準や産地組織と生協との間で「三つの基準」「提携の目的」等が検討し今日に至っております。

① 産直3つの基準。

  1.生産者がわかること。2.生産・栽培方法が分かること。3.生産者と消費者が交流できること。

② 提携の目的・意義 要約すると

  平和で持続可能な地域社会、食の安全・安心を追及するために「食料自給率 の向上」「環境保全」「生物多様性」「環境負荷削減」「食・農(漁)の学習」「生産者と消費者の直接交流」を重視した取り組みを行うことにしています。

③ 1970年当時の産直品の扱い高は約1500万でしたが、現在(2017年)は約60億以上になっています。生協の方針としては2020年までに80億その後100億まで伸ばしたいとしています。

 

2.宮城の養殖水産物の生産高(復旧率)は2010年対比2014年 県合計74.4%

(北部72%、中部92%、南部 30%)(宮城県漁協)同期の志津川地区の復旧率は110.9%。

平成29年(2017年)は116.8%です。(詳細別紙)大きな差があります。 

   1)志津川本所は震災前(2010年)1,116百万から1,399百万(震災対比125.4)戸倉出張所は1157百万から1,256百万(同108.5%)です。

   2)伸びた養殖物は?

 

2010年

構成比

2016年

「復旧率」

構成比

かき

474百万  

20.8%  

262百万  

55.3%  

9.8%  

わかめ類

403百万  

17.7%  

538百万  

133.7%  

20,2%  

銀鮭類

1149百万  

50.5%  

1533百万  

133.5%  

57.7%  

ほや

40百万  

1.8%  

22百万  

54.4%  

0,8%  

2274百万  

 

2655百万  

116.8%  

 

(その他の養殖水産物は除く)

銀鮭が金額で384百万、わかめ類が135百万増加です。半面かき、ほやは減少のままです。地区内の生産高構成比も銀鮭、わかめが伸びています。

 

みやぎ生協の志津川めぐみ野品(産直品)は17年度見込みで292百万(震災前対比885%)です。めかぶ147百万、銀鮭99百万、ほや35百万、かき11百万です。

(志津川地区の養殖ものの1割弱9.3%がみやぎ生協で供給)

 

3.復旧の原動力は何でしょうか?

 (1)震災復旧の取り組みの経緯

1)震災発生前からの漁協組合員と生協組合員との交流

 1993年生協組合員から「水で増量させてないかきが食べたい」「生産者が分かるカキがほしい」「毎日剥いてくれる鮮度のいいカキが欲しい」という要求に応えられる志津川漁協(当時)とかきの産直が始まりました。年に数回、組合員も入った会合を設け互いに漁場視察等学習交流しながら進めました。当時、見栄えのいい「水かき」が主流の中、販売には苦労がありました。漁協組合員による試食販売等で定着しました。

2)震災時の支援

震災発生後の4月末に佐々木運営委員長から筆者に「生協の方々が応援に来てくれている、ありがとう」と電話があり確認したところ京都生協、コープしがなどの生協職員、組合員、その取引先の方々でした。彼らは支援先を探し「それではみやぎ生協の提携先の志津川漁協へ」と紹介されたというものです。関西地区から金曜夜に鍋釜、食材一式とボランティア数十名を組織し「志津川弾丸支援ツアー」を十数回も継続させました。みやぎ生協も職員・メンバー(組合員)を組織し継続的に支援しました。又、全国の生協からの支援金・物資を志津川地区に投入しました。生産者と生協職員・組合員の実質的な交流が深まりました。

■ 宮城の漁業の価値を深める。

  ●地場漁業の価値とは

  ①   漁協主導で漁場の適切な管理。

  ②   食料自給率向上、地産地消での地域経済の活性化。

  ③   沿岸・地域(浜)の(食)文化の維持。

  ④   良質なタンパク質の供給。

  ⑤   豊かな食生活。旬の享受。

  ⑤   地場水産加工技術の継承。    他

 (2)生産者の奮闘  生産意識の変化

震災後、船も筏も漁具も作業小屋も軽トラックも一部家族も失った生産者は生業の養殖漁業を国や県の支援も受け再開させました。「志津川湾再生計画つくり」や慣れないグループ作業、それも仮説住宅からの出発です。

①投資が少なく回収の早いわかめを先行させました。

②志津川地区の養殖の半分以上を占める銀鮭も飼料や飼育方法の改善と付加価値創りに取り組みました。

③「応援してくれた消費者に対して旨いもの、安心なものを届けたい。」の思いを強くしました。(最終消費が誰かわからないのではなく分かるから安心なもの)                                                    

 (3)関連する加工・流通業者の奮闘と協力。 

産消提携事業への参加は地場の加工業者、市場流通業者の会員としての協力が欠かせません。又、地域経済の再生の立場からも極めて重要です。かき、めかぶを加工するカネキ吉田商店、銀鮭を一次・二次加工する行場商店、企画、市場集荷と分荷、受発注を担当する仙台市場の卸会社、仲卸会社の献身的な協力を頂きました。このような協力体制があったからこその取り組みでした。

 

4.めぐみ野魚種ごとの取り組み

★ 【めぐみ野とは】=信頼・安心のブランド力

みやぎ生協の産直品(3つの基準と目的を満たしたもの)のブランド名。里のめぐみ、山のめぐみ、海のめぐみ、人のめぐみ。

「地場のモノ、カネ、ココロを回して地域経済再生」

1)めかぶ 17年度供給見込み高 134百万。味付け加工品13百万。

震災前は殆ど扱い無し。震災後いち早く志津川で養殖生産に着手。生協では従来の供給(販売方法)だけでなくメンバー訴求等駆使しました。

①この商品を利用することで被災漁業者・志津川地区の復旧・復興を直接的の応援する商品だとメンバー(組合員)アピール。

②鮮度感が出せるように「ぶっかけタイプ」のインストアーパック。生食コーナーで陳列。

③買いやすい価格にするために100円台からの品ぞろえ。

④佐藤わかめ生産組合長等生産者からは「めぐみ野ブランドに恥じない品質、鮮度、地場原料の年間安定供給量の確保等、本気で頑張った。おかげで後継者も出来た」「種も高品質のめかぶが出来るものに厳選」と。

⑤2016年からシシャモ卵を入れた加工品も追加。

⑥健康食品としてマスコミ報道。

  【課題】

  ①輸入拡大による産地価格下落(生産者)

  ②葉の付加価値利用方法の研究。

2)銀鮭  17年度見込み 生45百万、塩蔵54百万。

  ①全国一の生産ですが近年はチリ、NZ,欧州等の輸入品に圧され生産者再生価格割ることも。

  ②4-7月の期間だけでなく冷凍での年間扱い。生食の障害である小骨対策の実行(行場商店)

  ③東北地区で需要の多い塩蔵品の新規投入で大幅拡大しました。

  【課題】

  ①TPP、欧州EPA等の自由貿易振興による価格下落。

  ②地場品の訴求方法改善。

3)ほや  17年度見込み35百万

ほやは宮城は全国一番の生産高・量。震災前は韓国への輸出が7-8割。津波で流されましたが2013年から市場品として扱い。福島第一原発事故で輸出先を失った。生協側メンバーの「鮮度の良い今朝どりのほやが食べたい」のニーズに仲卸が「今朝どり当日各店配送」の仕組みを作り上げた。

  【課題】

  ①高品質(玉はり)の確保。

  ②安定価格。

4)かき  2017年見込み 11百万

宮城県産のカキの生協での扱いは2000年ころをピークに減少傾向。志津川地区との産直の始まりの商品。

(震災とは無関係の減少理由)

  ①産地偽装事件。産地としての信頼を一定失った。特定産地と結びづらさ

  ②生食不向きのノロウイルス発生の常態化消費の加熱化傾向

  ③人手不足・時化等での出荷量の不安定さ、価格の乱高下

  ④他産地(瀬戸内地区、韓国等)の市場参入と拡大

   →宮城県産かきの位置に不明確さ。

   【課題】

  ①ノロへの抜本対策

  ②価格の安定化。(再生産可能価格維持)と値決め販売方法の多様化。

  (私案)                              

目的(ノロ対策は別)

1)宮城県産かきの復興・再生を促進する。

2)再生産可能価格を維持できる。

3)仲買及び販売者、消費者が安定して販売、購入できる。

4)特定産地のかきを加工業者(仲買)が買い入れことの可能化。

 1)現状

     浜生産者  → 漁協支所 → 漁協共販入札所(気仙沼、石巻、塩釜)  → 仲買い(加工業者)  → 消費市場・小売り店 →消費者

 2)メリット・デメリット

   ・メリット

      全量が漁協共販入札で販売されるので生産者にとっては出荷し易い。決済も安定し早い。

   ・デメリット

      ①特定産地、生産者のかきを特定消費者に届けづらい。

      ②入荷量と需要(人気)で価格形成されるので「しけ」や休日明け、暮れ等は「暴騰」もあり消費者、加工業者には負担が大きい。

     (現状では小売りと仲買は「週間値決め」のような方式。しかし、小売の力での圧力で相場リスクは仲買持ちが多い)           

  3)案  漁協リードで検討して頂きたい。

【週間値決め方式】

①宮城県漁協・かき部会、仲買組合、(行政)で期間毎に(仮)価格を設定する。産地(地区)、規格、生食・加熱ごとに決める。

②仲買と消費市場・小売りはそれを参考に価格決めする。生産者に不足が生じた場合は(行政)が何らか支援する。

漁協の組合員である生産者・団体は直接、小売業者と値決めできる。この場合、漁協の帳合いとする。

④浜の生産者、漁協支所がそれぞれの入札所直接搬入、納品先へ直搬入可能とする。この方式はめかぶ、ギバサ等で行っている方式。

   5.まとめ 

   「売り上げ不振、後継者不足、人材不足対策」

  (1)行政・地域一丸となる「復旧・復興体制の構築」 価格・所得補償含む。

  被災者、住民、生産者主体の納得度の高い復興策創り。

  (2)家族複合漁家経営の再生。

  沿岸漁家経営の多くは家族複合経営。この再生に支援する。

  (漁家の労働力は家族、生産・漁獲はかき、わかめ、ほたて、ほや、かき、銀鮭、採取等の組み合わせが最もリスク少ない)

  (3)生産地、消費者を結びつけられる商品開発できる組織・人材。

  (4)商品開発の要件

  ①   地場での消費者ニーズ把握 ②開発ストーリーの明確化(コンセプト) ③大衆品

  ④値ごろ価格 ⑤商品ストーリの理解(復興支援)の学習機会創り。 ⑥地産地消の正しい理解 ⑦関連業者とのコーディネイト力のある人材力。

  (5)漁協・生協の役割が大きい。

  協同組合原則の再確認。生産者の頑張りに真から支援できたか?

  消費者の期待に組織的に応えることが出来たか?成果を組織で確認できるか?

                            以上。

 

筆者 自己紹介

このHPに投稿するのは初めてです。齋藤清治と言います。簡単に自己紹介です。

1951年宮城県塩釜生まれ。現在無職。地域の諸活動と趣味に生きてます。長年、地元の生活協同組合で働いていました。今は人生の誇りの一つです。

小生の今の願いは「地域再生」です。簡単に言えば地方が元気がなくなった地域経済を再生するには一次産業とそれを取り巻く中小企業が元気になること大事と考えています。地域疲弊の要因は複合的ですが、新自由主義経済が根本と考えています。

この添付文書は地域経済、特に宮城は震災復旧・復興で協同組合(漁協・生協)の活動の検証を行ったものです。仙台市場の卸さん、仲卸各社さんと生産者・漁協、生協消費者との連携の結果と考えています。皆さんの何かの参考になればと思い報告いたします。

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